『残念なペット、の飼い主であった頃の俺。』

ホールデン・コールフィールド風に)

くら寿司のびっくらポンほど正気の沙汰と思えないサービスはないね。

当たらなければ腹が立つが、当たっても腹が立つんだ。

こないだ駅の待合室に座ろうとしたら、誰が見てもびっくらポン製と分かる四角いたまごのようなハチマキを巻いたキャラのアクセサリーが椅子の上に置いてあったんだ。

それに僕は、ちょっとばっかし運命の出会いを感じたのさ。

それで、手にとって、しばらく見回しているうちに気付いたんだな。頭の上にはご丁寧にもボタンが付いてて、これを押せば何かしてくれるような不思議な気分にさせられたんだ。決して酔ってたわけじゃないんだぜ。

仕方がない、と一人ごちて僕がボタンを押したらだよ。このイカレポンチが何をしでかしやがったと思う?


「びっくら、ポンッ!!」


まるで僕に裁判でも起こしたがってるような剣幕でそう絶叫したのさ。これにはほとほと参ったね。なにせ何の前触れもなく、待合室に響き渡る声で叫びやがったんだ。

せめて体の一部分が光るとか、そういうのだったらまだ許容できたと思うんだな。だのにいきなり奴(やっこ)さん、こっちが“びっくら”しそうな大声で喋り出して、たまんなかったね。

四、五人ぐらいだったかな、その待合室に居た人も示し合わせたように僕を村八分にしやがってさ。


でも本当に僕が許せないのはだね。あんなチャラッポコをわざわざ待合室に置いてった野郎と、これを作り出すことを仕事にしてるような人間さ!

誰が得するために作ったのかは知んないけど、それはどうやら僕ではないし、きっと僕の知る限りの人間は誰もこいつを持ってて嬉しいとは思わなさそうなんだな。


前に僕がびっくらポンで“運悪く”引き当てちまった哀れな『黒ヒゲ危機一髪もどき』の玩具なんか、刺して飛び出す穴が初めから決まってて、ランダムにリセットされないんだ。

ありゃ友達を誘ってやろうって代物じゃないな。覚えてる野郎が勝つ、くそったれのテストと同じさ。気が滅入ってしょうがない。』




ライズだ。こんにちは。

俺が高校の時に読んだ『ライ麦畑でつかまえて』って有名な小説に、ありそうな感じの文章で書いてみた。


いや、俺自身自覚が無いんだが、どうやら俺の普段の口調やなんかが主人公のホールデンに似てる、なんて言われてさ。それに触発されてやってみたんだけど…………なるほど、なんか分かる気がするわ、それ。

多分この本の影響を受けた結果今の俺が育っちまったんだな、きっと。

もしも手に取ったことが無けりゃ一読の価値アリ。サリンジャーは普通に面白いと思うしさ。



さてさて本題。

なんだろ、今日はペットの話しよう。


なんでかってと、最近俺の家の近くで高速道路の工事が進んでてさ。こんなクソド田舎にだよ、それが進行してて、ついに俺の部屋から見えた景色までそっくり変わっちまったんだな。

で、たまたま昨日散歩に出かけて、コンクリートの柱が立ち並ぶ高速道路の開発現場を通りかかった時に、今まで駐車場になってた所にも柱がでかでかと刺さっててさ。


俺そこにちょっと思い入れがあったんだよね。ていうか俺の飼ってたペットを埋葬した場所なんだよ。ぶっちゃけ。

そこに何を埋めたかってーと、バッタとカマキリなんだ。小学校の時の課題で飼うことになってさ。


今でこそ『昆虫なんて絶滅しても生態系は変わらんし、もし変わって滅びるようなら、昆虫に依存しなきゃならんようなこんな世界滅びてしまえ』と豪語する俺だが、

当時まだ俺はそれほど昆虫嫌いではなかったんだ。


で、バッタとカマキリ飼い始めたんだけど、何をエサにするかてんで見当も付かない。ためしに草を入れてみたが、あいつら顔に表情出さないから喜んでるのかもわからなくてさ。

次第にどうでもよくなったんだよな。そもそも学校の課題っていう義務で飼いはじめたもんだったしね。


でさ、一週間ぐらい放っておいたら、ついにカマキリがバッタ食べ始めたっぽいの。同じゲージで飼ってたから。


もう世紀末状態。Welcome to this crazy time、このふざけた時代へようこそ。君はたっぽいたっぽい…………。


でさ、バッタが何やらタマゴ産んでたのにそれも全然孵らないし、カマキリどももそろそろ死んで行くのね。

ここまでなって初めて、ていうか全滅してから初めて、そいつらに愛着が湧いてた自分に気付いて泣きながら埋葬したんだよ。駐車場に。入ってた土ごと。

…………あの高速道路、完成しても事故起きないといいな。



よし、じゃあ2つ目のペットの話をしよう。

これは飼ってたと正確に言っていいか分からないけど、家の窓にへばりついてたヤモリを『ヤモちゃん』と呼んで可愛がってたのさ。

一時期ノリ(妹)は『ヤモリさん(だんだんアクセント下げ調子で)』を流行らそうとしてたけど、明らかに有名なグラサンMCを意識してたからやめといたのね。

で、そいつがある日張り付いてなかった。窓を開けると下に仰向けで倒れてて、動いてなかったんだ。


いつの間にか家族のアイドルだったから、近くがいいと思って隣の空き地に埋めることにしてさ。

しかも当時小学生の俺はその死骸と一緒に『ヤモちゃんへ たのしかったよ、ありがとう』とまぁなんとも今からじゃ想像できないぐらい天使な手紙書いて一緒に埋葬したのな。


で、中学になったある日、登校の時に何も無かったその空き地に、下校の時に家がいきなり建っててさ。

いや、断じて見落としてたとかは有り得ないんだ。そういう地形でさ。確かにそこには登校の時何も無くって、っていうか奥が畑になってたぐらい平凡な空き地だったのに、そこまで全部家がどしんと建ってたんだ。

びっくりして母親に聞いたら、『まるでレゴブロックのように一階、二階、と積みあがって、気付けば完成していた』とか言い出すのね。
意味わかんねえ。ポルナレフかっての。


まぁとにかくヤモリの墓跡地に家が建って、もう今で4年目ぐらいになるんだけど、


ここからが面白くてね。

その家、なんか住人が定まらないんだよ。

引っ越してきたと思ったら、すぐにまた空き家になっちまう。一戸建てなのにだよ? しかも今で5組目なんだぜ?

一年持たずにみんな引っ越しちまうんだ、そこの家。


…………なんか、出てないといいなぁ。



そろそろ嫌んなってきたかも知れないけど3匹目の話。これは和める話ですよ。俺以外は。


ある日、下校の最中にカメが灼熱の中で弱りながらコンクリートの上歩いててさ。

干からびそうだったし、竜宮城に行きたかったから助けたわけ。で、わざわざ水槽まで買ってもらって、そこで育てることにしたんだけど――――もうたまらない。


まず夜中に爪で水槽ギーギーしやがる。おかげで眠れない。何度鍋に入れてやろうかと思ったか分からないぐらい。

しかも美食家でちょっと高いカメの餌じゃないと食べない。贅沢言うなぶち殺すぞ、と言っても人間の言葉を分かってくれない。

最後に。竜宮城に連れてってくれない。


もうカメの風上にも置けねえ下郎だった。本当にさ。

でも、なんだかな、だからこそ愛着を持てたのかな。バッタ&カマキリの前例があったからってのもあるんだけど、なんだかんだで毎日エサあげるのサボらなかったし、昆虫に比べて顔の表情もそれとなく分かるんだよな。思い込みかもしれないけど。


で、飼い始めてから半年って時にさ。事件は起こったんだ。


俺小学校の時はパンピーなサッカー少年でさ。しかも小さな地元のチームだったけど副リーダーまでやってたんだ。今じゃ見る影も無いけど。

それで、冬の合宿があったもんだから、それに参加してたところにだよ。



親が、勝手に近くの山田池公園ってところの池に放しやがってさ。



俺のカメをだよ? 毎日育ててさ、可愛がってさ、何の文句の付け所もなかった飼育態度だったのにだよ?

合宿行って帰ってきたら水槽あった場所にそれそのものさえ無いわけ。

俺出かけるときに「じゃあ、俺が居ない間カメの世話よろしくね」って言ったよな!? 言ったよなっ!?

しかもそれに「はいはい」とか言ったよな!?

こんな風に捨てるんだ?俺もいつかこんな風に捨てられるのか、そう思うまでに小学5年生の俺はひどく落ち込んだわけよ。


でもさ、親とノリ(妹)が口をそろえて言うのは、



「でもあのカメ、池に入れたあとに、一回こっち振り返っておじぎしたよ?」



――――その一言で全てが救われたわッ!


………でもさぁ、勝手に放した事実は変わらないわけで………。

俺も、見届けたかったな。



後日談。今その水槽は、うちの金魚のものになっててさ。これはノリのペットだから詳しく書かないけど。

お祭りで手に入れた金魚なのにもう2年近く生きてるんだよな。不思議だなぁ。


ただ、その金魚が最初5匹居て、ノリは「あっちがのび太くん」「こっちがコスギ」「これはグーフィー」等と名前をいちいち決めていたが、見分けを付ける方法は決めてなかったらしく、「もう全部のび太くんでいい」とか言い出して、いつの間にか5匹ののび太くんが誕生している。


そして、その年の夏に白川郷聖地巡礼を家族ぐるみで敢行した際、誰も2日間世話をしなかったのでリタイヤが続出。

うち2匹は『干からびる』という異常事態に見舞われた。

…………いやいやいや、水槽の中に、水の中に、H2Oの空間支配の只中に居て、干からびるってどういうことだよと思ったけど、どうやらカーテンを閉め損ねて日の光を浴び過ぎてしまったらしい。


弓のように反り曲がって死んでたのび太くん達。安らかに眠れ。


3匹そこでアウトになって、今現在はまだ2匹が生存中。

ちゃんとノリもエサもあげてるみたいだし、感心するけども。


ノリは今中学2年でバスケ部に所属しててさ。

あいつが合宿に行く機会があれば、金魚を公園の池に放すことも…………いや、やめとこ。憎しみは憎しみしか生まないからな。

されて嫌な事は人にしちゃダメだダメだ。


うん。せめて天寿を全うさせてやろうじゃないか。


なんか期せずして良い終わり方が出来るっぽいんで、このへんにしとくか。

なんだか結論が見えないけど、それはいつもの事、ってことで。


そんじゃ、また次回。