『長編処女作について。』
ライズだ。こんにちは。
今日掃除をしていると、昔の原稿がどっさり出てきた。
そしてその原稿のあんっまりの稚拙さに昔の自分を呼び出して盛大にダメ出しをしてやりたい衝動に駆られまくった。
なんだこのふざけた表現は。日本語にすらなってない。
作家を目指すんならせめて辞書を一読しろ。間違った日本語を使うな。
アホかお前は。こんな不条理な展開でオチ付けたつもりかお前。
とまぁ、その他色々昔の自分にお説教しておりました。
しかし、がさごそとやるうちに、束の中でもちょいと趣の違う原稿があった。
それは未だに完成してない長編だった。
それまで『箱庭』も含めて“短編の連結”という一話一話を区切った方法でしか書いてこなかった自分が、高校入学ちょっと前に挑もうとして収拾付かなくなっていた作品。
『フォークロア』から始まり、その設定と世界観を継承した上で書かれた『歪んだ箱庭』、最近では『Coteren's Origin』にまでまたがる“世界の軸”の中で、ひとつだけ外れた設定で書かれる『初めてにして独立した単発長編』。
『箱庭』などを短編の集合としての長編とするなら、これは『純粋な長編処女作』と言ってもよいのではなかろうか。
『サイマルテニアス』。それが未完の作品のタイトルだった。
当時の俺が「これはもうだめだ」とレベル的に断念した作品。
もう一生書いてやるものかと最近まで忘れていたのに、掃除で原稿を見つけては読んでしまうのが人の性。おかげで色々思い出した。
今日はこの話をしようと思う。
あぁ、当時の俺には出来なかったわけだけど、
さっき俺が決めたことには、今の状態でリメイクしてやろうという目論見もちょっとぐらいあるので、
ネタバレ嫌いならちょっと手をつけない方がいいかな?
まぁやるかどうかもわからんので、そのへんは各自の裁量でお願いします。
主人公は検察官で、犯罪者とその弁護人をぶちあげてどれだけ刑を重くできるかが仕事なのね。
で、ある日殺人容疑者として敵になったのは、初恋の女だったわけだ。
正直日本の法廷は、いわゆる出来レースとも言えるかな。
『裁判になった』段階でぶっちゃけ有罪で、こと殺人では無罪になったためしは数%レベル、裁判が開かれた段階でそいつは確実に「殺人をしている」と言ってもほとんど過言じゃないわけだ。
当然検察官として主人公は女を懲役15年に持っていきたい。
だが、法廷で涙を流しながら無罪を訴え続ける女を見て、職務とは関係ないと分かっていてもそれとは別の次元で感情がぐらつく。
で、しかもその女が殺人を犯したとされるのは時効ギリギリ手前ぐらい昔の案件で、
その頃主人公と女は付き合っていた。
だから、自分と付き合っている間に女は犯罪を犯したことになる。
だが、その日に自分が何をしていたのか、女はどこに居たのかまではさっぱり覚えておらず、また記録にも残っていない。
前後もわからず、それでも主人公は女に懲役を課すしかない。個人的な電話などで下手にここで「本当にやったのか?」だの問い合わせたら、『共謀罪』に問われかねない。
でも、その一方で、当時の女の笑顔を思い出した主人公は、あれが殺人者の顔ではなかったはずだと苦しみ始める。
有罪と無罪を感情に背負う。まさにサイマルテニアス。同時。
当時女は何をしていたのか、自分はどこに居たのか。まったく思い出せない中、一審二審を有罪にされてきた女との最高裁が始まろうとしていた。
当時の俺は、この話のオチをこう考えていた。
女が有罪となって刑務所にぶちこまれたあとで地元に帰ってきた彼は、ふと河川敷のコンクリートの傷から、それを見ていた当時の記憶を拾いはじめる。
そのまま、雨の日を思い出した彼は、あの日ここで彼女と歩いたっけ、と思い返す。
そう、たしかその時プロポーズまがいの恥ずかしい台詞を言ってしまったんだっけ………。
そしてその日、何が起こったのかを段々と思い出した主人公は、自分の行動が思いがけず他人を殺していた可能性に思い当たる。
だが、自分が追い詰めて実現させたはずの懲役15年を背負うことに怯えた彼は、目を背けてのうのうと暮らした。
女は冤罪だったけど、名乗り出るのを恐れて女を身代わりにしたのだった。
そんなオチにしてしまった。だからさ、オチてねえんだって。過去の俺よ。
これがどうにもオチとして嫌で、こんな作品ならない方がいいと思って俺は放棄したのだ。
なんだこのオチ。太宰治かっつーの。いや単純な俺の偏見です。
だからこの原稿を見つけてから、「今の自分の実力ならどんなオチにするだろうか」と必死に考え続けていた。
それが出来て初めて、俺は一皮向けるんじゃないかと。
俺の至った答えは、こうだった。
以下に現在の自分の考えたあらすじを荒く書く。
主人公は女の罪じゃないことを名乗り出て、罪を着る。
で、主人公が塀の中で暮らして、女は外でちゃんと暮らす。
女は15年後、主人公を刑務所に迎えに行く。
車の中で、主人公はまず女に詫びを入れた。「あの時は、最高裁で君の言い分を信じなかった」、「ひどいことをしてすまなかった」と。
女は「いいわよ、もう。貴方も大変だったんでしょ」と言ってわずかに微笑んだ。
「あぁ、大変だったよ。………そうだ、大変ついでに聞きたいんだが」と主人公は切り出す。
「どうも、俺の考えも少し違っていた気がするんだ。あの日は雨が降っていた。俺が殺してしまった可能性はゼロにはならないが、確率はほとんど地に落ちていたはずだ」と。
「言われてみれば………確かにそうよね」と、女も困惑した顔で言う。
だが。
「でもあの時の約束、貴方は果たしてくれたじゃない。」と言って、また気楽そうな笑みに戻した。
「あの時って?」
「ほら、雨の降った日。あの日、二人で帰りながら河川敷で言ったじゃない。楽しい事も、つらいことも、二人で分け合おう、って。プロポーズみたいだった。」
「あぁ、…………あ、あぁ?」
「あの日、本当に嬉しかったのよ。わたし。貴方がそんな優しいこと言ってくれるなんて、意外だったから覚えてるわ」
女が主人公の顔へ向いたときだった。
「―――殺人を犯した日に、殺人を犯した女にそんな事言ってくれる貴方が、とっても好きだった」
助手席のドアを開けて、長雨の中女はどこかへ歩き始める。
「楽しいこと、つらいこと、分け合ってくれたね―――」
運転席から生命は消え失せていた。
前よりは納得できるというか、これならまだダークな作風といって許される範囲じゃないかと思うんだけどどうなんだろう。
一応今はこういう感じの構想で考えております。
本格的に『サイマルテニアス』リメイクってなった時に、これと違う展開になる可能性も充分あって、誰もが救われるハッピーエンドになることだってありえる。
ていうかたぶん実際に書くとなったらハッピーエンドにする。俺がそうしたいので。
最終的には己との葛藤の中で女との愛情を再確認するような、心温まる切ないお話にしたい。上みたいなダークなのには多分しない。
だからこのアイディアは、いわゆる仮のプロットとして終わっちゃうんだろうなぁ。
それでも著作権は俺に帰依させてもらうので、これパクって何か書いてもゴダゴダにならないわけじゃないぞ。初期プロットでも著作権は俺のものだ。
ま、類似品を出されるほどの腕前にまだ全然なれてないのが実情だとも思うけどさー。
あれはあれで名誉なことなのになぁ。
はて、作家を目指して早数年の自分。
『サイマルテニアス』と同様、マシなものが書けるようになるまでじっくり時間を掛けて大成できればいいなぁと将来に向けて思う。
それじゃ、さいならー。