『たとえ大阪が静岡になったとしても。その2』

まるで陸の孤島のように各インフラが完全に切断されているいま、誰かが見てくれていることを願ってこの文章を書く。

これをあなたが読む前に、私はあの異形の怪物どもに殺されているかもしれない。

もしそうだとしても、恐れはいらない。あなたがハンドラジオを手放さないようにすれば。


最初に異変が起こったのは5月25日。4ヶ月前の今日だった。

ある朝起き出した私は、住む街の全体が深い霧で覆われている事に気が付いた。

それだけではない。見える範囲の道路全域に散って蠢いている、多数の怪物とでもいうべき存在をも目にしてしまった。

娘が居なくなったり死人から手紙が来たわけでもなく、探偵に付きまとわれたり部屋から出られなくなったりもしてないのに、なぜこんなことになっているのかは分からなかった。

遊戯王カードで散々荒稼ぎしている会社の陰謀だろうか。光の援軍でライロ強すぎるどうにかしてくれ。


3階の自室からその光景を確認した私は、新聞紙とエアガンをせめてもの心の支えにして、壊れたラジオを片手に家を飛び出した。


街は既に異界と化しており、まるで一本道を歩けとでもいうようにあちこちへとバリケードが張り巡らされていた。

生まれて初めて血肉をぶちまけた死体を見たのはそれから少し先になる。

死体の傍らにはメモが落ちていたが、×ボタンでダッシュとはどういう意味だったのだろうか。役には立たなかった。


血を引きずった後を追いかけると、イズミヤの前に着いた。

正面が封鎖されており、葬式屋の隣のB1直結階段を下りてから苦労して屋上まで行ったが、駅ビルの鍵が手に入っただけに終わった。

栄養ドリンクがけっこう落ちている事だけが唯一の救いか。


再び街に出た。最近出来た客入りの悪い古本屋を横目に、ファーストフード店との間の駐車広場を駆け抜ける。

見たところ配置はライングフィギュア一体。古本屋の正面でうろうろしている。だから余裕で無視する。

ドライブスルーの注文マイクボックスの上にアンプルが置いてあった。生きて帰れたらマクドナルドに貢いでやろう。

そのまま高架の収束地点と交差点との接合部分に出た。幸い信号も機能していない。スクランブル交差点も同然に斜めへ駆け抜け、電器屋を通過しながら大通りを直進する。

が、駅前ロータリーから少し手前の場所で、道路の先が大きくひび割れて断絶していた。

巻き込まれた銀行が陥没して押しつぶれ、深い赤土の溝に挟まれてひしゃげている。

進む手段はないようだ。


どこからか、サイレンのような音に混じってブザーが鳴っている。

一旦先ほどの交差点へ戻り、そのまま左折して踏切の方へと進路を取る。こちらならまだ大丈夫ではないかと考えたのだ。

どんどん近づいてくる音に緊張しつつも、普段贔屓にしていた床屋の前を通り過ぎ、あの威勢のいい兄ちゃんたちはどうなってしまったのだろうと数寸考え、すぐに破棄した。


辿り着いた踏切は、何に反応しているのか知らないが鳴りっ放しであった。サイレンの音の正体らしい。

踏切警報灯が赤い点滅を交互に繰り返し、聞き慣れた警報音発生器のカンカンと響く音は普段通りであったが、障害物検知装置が何もないはずの空間を捉えてブザーを鳴らし続けているのはいささか奇妙で、耳障りでもあった。

我慢して待ってみたが、10分経っても電車は一本も来なかった。


仕方がない。駅ビルの鍵を有効に活かす道はひとつしか残っていなかった。

そのまま左側へ折れ、比較的新しい歩道を添えた小道をまっすぐ進み、そのまま駅ビル脇の通路へと入る。中学時代には塾の駐輪場との兼ね合いでよく通った小道だった。

直進すれば、横から駅ビルへ入れる裏口とでも言うべきガラス張りのドアがあった。やはりというべきか、鍵はこのドアのものだった。


そこから内部へと侵入した。いつものパン屋の香しい匂いなど今は望むべくもない。

エレベーターは当然のように機能しておらず、隣の階段から二階へと進む。昔はその階にも本屋があって賑っていたが、潰れてから先の事は知らない。


ただ、ここまで壁面全体が荒廃し、床も錆び付き、赤茶色の地肌を空間の奥底まで晒すほどに人の出入りがなかったわけではないと思う。


連絡通路を直進して改札方面を目指す。通路の吹き抜けからわずかに見渡せるロータリーの風景は依然濃霧の中にあり、はっきりとした様子は分からない。

いよいよ、この街には私ひとりしか居ないらしい。

きっとあのロータリーの奥でもがいている人型の何かも、人型の何かにすぎないから。


改札口へと到着したが、待てど電車が来ないことは既に知っている。

恐らく、閉鎖されている踏切はあそこだけではあるまい。いま京阪交野線に存在する全ての踏切が一斉にサイレンとブザーを撒き散らしているに違いない。

そして、私がそれを無視して通ろうとするその瞬間にだけ、霧の中から電車は現れるのだ。回避不能で残りの体力を無視した、一撃必殺の特殊な死を私へもたらすために。


きっと私は、線路から向こう側へ行くためだけに駅ビルの鍵を手に入れたのだろう。


その思惑の通り、改札を無視して直進し右折すれば、線路を挟んで向こうへの街へ下りられる階段に出くわす。

上り専用のエスカレーターが、不気味にも作動していたことを除けば、大した脅威もなく階段を下りる事には成功できた。

ビルに存在した怪物も全て無視してきたため、思ったよりもスムーズだ。おかげでこの新聞紙もまだかなりの使用に耐えうるだろう。

エアガンは、あってないようなものか。遠距離で先制を仕掛けられる以外にメリットがあるとは思えない。

ただ、どちらの装備よりも素手の方が圧倒的に強いと思う。鉄パイプが欲しいと切に願う。


できたばかりのロールケーキ屋が正面にある。

そこから道は左の商店街側と右の市民会館方面に分かれているが、おそらく右側へ用はないだろう。

右側へ行けば、先ほど電車を待ったあのうるさい踏切の対岸へ着く。値段の安くない寿司屋が正面にあり、踏切を渡るか、たこ焼き屋から公民館へ向かうかを迫られるわけだが、先ほど対岸から見た限り、後者のルートはバリケードに封鎖されていた。踏切も使えないのだから、右側へ行っても行き止まりが待っているだけということになる。


ならば、この駅から左側へ向かい、商店街の方面を目指すべきなのだろう。

それは避けられぬことだという直感が私にはあった。


商店街の間には、このあたりで一番大きい病院が厳格な表情のままに聳えているのだから。


足を動かし始めた私は、ふとケーキ屋の隣にあったコンビニを見、正面のドアに張ってあった奇妙な赤い紙に引っ掛かりを覚えた。

折り紙、だろうか。そう思ったのも少しの間で、近づけば近づくほどその紙の正体が分からなくなった。

なぜか瑞々しい光沢を放ってぬめぬめと輝いているそれを、私はしばらく我を忘れて眺め続けた。



………これを見ていると、頭をまさぐられるような、妙な感覚が………。





はいはいセーブセーブ。ライズだ。こんにちは。

「気が向いたらやる」とか数ヶ月前に言ってたから、まぁやろっかなと思ったけど、なんだかよくわかんないものができてしまった。

これ交野市に住んでないとわけわかんないだろ……。


まぁいいや。セーブもしたことだし、またこれから気が向いたら病院編でもやるわ。オチ考えとかないとなぁ。

それじゃ、また。



で、今あなたのうしろにいるそれ、なに?