『超ホラーな体験について。』

核搭載ミサイルを発射した時の金正日の言い訳が、田中秀幸の声で「移動可能なTMDだよ」の一点張りという内容の初夢。


ほい、新年早々の嫌がらせメールも華麗に折るライズだ。こんにちは。つーかこの時期を見計らってやりやがるタチの悪さ。片割れのみでは満足せず俺にまで波及したらしい。

皮めくった薄汚い本性ってのはそんなもんか。若かりし俺の判断も間違ってなかったわけだ。

さて、そんな話は置いといて、前回の日記で俺が南太平洋に遭難したことは書いたと思うが、今はなんと、インドネシアからお届けしております。

いやぁ、タラバガニとか白い恋人とかがうめえっすよ。マジで。


まぁ嘘はこのへんにして。

今日は去年実際にあった『怖い話』を、季節外れながらお届けさせていただく所存である。

今まで何度か自分の小説で「人が消える」を題材にしたものがあったが、実際にやられるとは思わなかった。


あ、これから食事を、とりわけカレーを食おうと思っている人が居たら、悪いことは言わないから「戻る」を押すべきだと思う。



俺はその日、電車に乗っていた。

ある事情があって、いつもの京阪電車ではない、地下鉄に乗っていた。浅田次郎さんばりにメトロに乗ってたのである。

京都の三条で降りようと思っていたので、烏丸なんとかって駅で降りないといけないとだけ頭には入っていたが、それはそれとして困ったことに、もうひとつの問題が今俺の頭を叩き回って離れてくれなかった。

即ち、便意である。


便意とは、人間の三大欲求からかけ離れた存在であるくせに、時としてそれらを凌駕する核兵器へと化す、未知の可能性を秘めた生理的現象である。

ところで思うのだが、便意欲が強ければ、性欲も食欲も睡眠欲も全てつぶされることすらあるではないか。

これは三大欲求が弱いのか便意が最強すぎるのか。いずれにしても、『三大欲求』の『大』の字の看板は下ろさねばならないと真剣に考えている。


ところで、便意が車内で発生した場合、以後いかに苦痛を強いられるか、この日記を読む人の中にも覚えのある方はいるのではなかろうか。

まさにそれが俺の腸を突き上げたのである。元は食物として体内に接収されておきながら、今更ながらに武装蜂起を企て、宿主を殺さんとする猛威を奮ってやまぬ。奇しくもそれは前日にくら寿司で食いに食い尽くしたサーモンであった。


俺は必死に絶え続けた。

もうすぐ烏丸なんとかって駅である。あと10分とかだったら途中下車もせねばならんが、本当にもうすぐだからどうにかなると踏んだ。

しかしそうしている間にもクーデター軍は大腸より小腸へと駆けずり回り、周りの細胞を散々痛めつけ、嬲り、蹂躙し、虐殺していった。


ようやく烏丸なんとかの駅に着いた時には既に息も絶え絶え満身創痍も甚だしいほどであったが、気を抜かずにトイレを探して奔走することとなった。

wikiで調べたが、あの駅は烏丸御池というらしい。

その駅はとにかく広い。その中で新参の俺が多少トイレを探すのに手間取ったとしても責められたものではない。


どうにかトイレを発見し、個室に閉じこもり、鍵を掛けて腰を下ろした。

政府軍が反乱を鎮圧した瞬間である。その高級すぎる間は、まさに至福の一時と呼んで遜色がない。

俺は度重なる便意に打ち勝ち、結果として平定に成功したのであった。



しかしここから、いかにも初歩的な罠に気がついた。いや、流石に頭脳滅裂勇猛果敢をもってなる俺にも看破することができなかったのだ。

皆さんのお察しどおりである。

ある物資の不足によって俺は、篭城戦を余儀なくされた。


ちょっと洒落にならんのが、その駅は広いとはいえ、それほど人がやってくるかというとそうでもなさげな感じの駅だったのである。


まさしく途方に暮れた。

途方に暮れたまま五分が経った。

今日の授業はどんなことをするんだっけと考えて過ごすことにした。


途方に暮れたまま十分が経った。

明日は何曜日だな、明後日は何曜日だな等と意味不明の思考を巡らすぐらいしかやることがなくなった。


もはやこの個室は、単純なギミックで存続するある種の牢獄となっていた。


そして途方に暮れてから十四分ぐらいの時に、初めて足音が聞こえた。

慌ててスピリチュアルな世界への逃避を終わらせ、声を掛けようとした時、その人物はまさしく俺の隣の個室に入ったのである。


これこそ天啓。俺は今日から熱心なカトリック教徒になろうかしらと本気で考えながら、俺は前方の壁をノックして言った。



「あの、すいません。こっちあの、紙がなくなっちゃって」


「Huh...? Hey, what are you talking about!」




日本に来てんだろオメエ!!


なんで日本語喋れねえんだよ!!




さすがは外国からの観光客数で随一を誇る京都。

だがしかし俺は取り乱さなかった。

その昔英会話で培った、卓越したネイティブスピーキングを披露する時が来たのである。


「あぁ、 ウッジューギゥミィサントイレットペィパ?」


めっちゃカタカナであった。そもそも俺はナショナリストを語って久しい日本人なのである。

だが、こういう時はゆっくり喋りさえすればどうにかなるとジム先生が言っていたのでその通りに倣った。


すると向こうも納得してくれたようだった。異文化交流ここに極まれりである。



しかし、物の数秒もしないうちに、扉の向こうからけたたましい笑い声が聞こえてきた。


何事かしら、まさかこの状況をハメやがったのは隣のこいつか、こいつが黒幕かファック! 等と考えていたら、向こう側から興奮冷めやらぬ声が飛んできた。




「I have no one either!! ア、ハ、ハ、ハ!」




はあああああああああああああ!!?




いい加減にしろよ!


なんだよそれ!


お前外国人だろ! フロンティアスピリッツで何とかしろよ!!!



と怒鳴りたかったけど、外国人は怒らせると怖いので断念した。




しばらく経っても笑い声は消えず、俺は一向に頬の肉を引き攣らせながらこのアホみたいな空間によく耐えた。


ようやく笑い声が消えた頃には俺はもう定時通りに授業に出るのを諦め、気を紛らわすために大音量でイヤホンから音楽を聞くことに没頭していた。

もう何分経ったか分からなかった。



だが、しばらく後に、再び扉が開く音がかすかにした。今度は後ろから。


真打ち登場である。まさしくヒーローは遅れてやってくるの法則であった。


俺はもう拭く必要が無いほど乾いたのではないかと思う下半身を捻って、今度は後ろにノックした。



「ソリー、ジェノメン。バォアイニーォサントイレッ」


「あのォ………」





日本人か! なんだよもう!!




負けっぱなしの俺の人生とはいえ、ここまで来るといい加減怒るぞ、と思ったが、日本人も怒らせると怖いので断念した。


「いやあの、サーセン。実は、トイレットペーパーを切らしておりまして、いただければなと」


「あぁはいはい、そういうことですか。ちょっと待ってくださいね」


そう残してカラカラという音が聞こえた。待ち望んだ祝福の鐘の音だった。

だが、俺はけっして、情にうすい男ではなかった。


「………あの、俺の隣のやつも切らしてるみたいで、よければ多めにくださいませんか」

まこと慈悲深い。その辺の修道会よりも清らか、それが俺のジャスティス


そして、個室上の空きスペースからトイレットペーパーは無事に受け渡された。

相当以上に盛ってくれたので、そのうちの半分を千切り、「ヘァユーアー!」と前の個室へ投げ入れた。


命のたすきが繋がれた瞬間、感動の嵐吹き荒れる個室。


もはやそこに言葉などいるまい、そう思ったのか、前の個室も声に詰まって何も言えないようだった。


そして俺は、入念に綺麗にしたあと、ようやくここに水洗レバーを引き抜くことに成功した。

ザー、と全てが流れていく。出家したあとのような爽快感が胸を埋め、俺はあまりの感動にベルトも巻ききらずに個室から躍り出た。


シャバの空気はうめえ。

この上なくうめえ。

そう思いながらふと振り返ると、俺はこの世で一番見てはならないものを見たのだった。



俺の前の個室に、人は居なかった。



ただ、申告通り芯しか残っていないカラカラと、俺が投げ入れたペーパーの玉がそのまま便器の中にインしている現状とを鑑みて、俺は何も考えず、とりあえず、文字通り水に流したのだった。

出した排出物さえも置き去りにして、忽然と姿を消した彼の正体は、何だったのだろうか……。



とてもとても、怖い話でありました。


面白おかしく言ってはみたけど、実際に起こった事は全部マジでした。絶対あの外人ケツ拭かずに出てっただろ……。音楽聞いてる最中になんとなく音がしたような気がしたんだよなぁ。


まぁそんな怖い話でしたが、みなさんもぜひトイレの際には、かの物資の在庫をご確認くださいますように。


それじゃ、またね。